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3話-3 呼び出しと特別な晩ご飯。

last update Last Updated: 2025-04-02 19:59:46

エルバートは瞬時に振り返り、

月が夜空に光輝く中、剣を抜き――――、ずばっ!

魔を剣で真っ二つに美しく斬った。

すると、魔は浄化され、光と共に消えた。

――終わったか。

エルバートは鞘に剣をカチッと入れる。

それにしても、今日は特別に麻紐で髪をくくり、

魔除けの効果は上がっているし、

魔が自分をつけ狙うなどあり得ないはずだが。

だとすると、自分を乗っ取り、帰る目的であったとするならば、

魔の狙いはフェリシアか?

調べた結果では“フェリシアには魔を祓う力はない”と出ているが。

(まぁ、なんにせよ、浄化は終わった。早く帰るとしよう)

* * *

「ご、ご主人さま、おかえりなさいませ」

しばらくして、フェリシアは玄関で跪き、頭を下げる。

「あぁ、ただいま帰った」

「それから立て。もう跪くな」

「か、かしこまりました」

フェリシアは立ち上がると、エルバートの髪を一つにくくった麻紐が緩くなっていることに気づく。

「あの、ご主人さま、何かあったのですか?」

「その、お帰りが遅かったので…………」

フェリシアはそう言って、ハッとする。

(帰りが遅いだなんて、勤めを終えて帰られたご主人さまになんて失礼な事を!)

「も、申し訳ありません!」

「いや、私の方こそ、晩飯のことを命じたにも関わらず、遅くなってすまない」

「帰り際に魔に襲われてな」

「え、魔に!? お体は大丈夫ですか!?」

「あぁ、たいした魔ではなかったからな」

「とにかく、着替えてくる。晩飯の準備をしておいてくれ」

「かしこまりました」

その後、食事室でスープや副菜、パンが並ぶ中、メインであるフォアグラムースのクロケットを顔を見合せて食べる。

エルバートの髪は下ろされ、

軍服は昨日出会った日のものに着替えをしてきたのだろう。

髪が下ろされただけで、安堵感があるのと同時に、

初めてのエルバートとの晩ご飯に緊張してしまう。

「どうした? 手が止まっているぞ」

「いつも一人で食べていたもので……」

「それにわたしのような者がご主人さまと晩ご飯を共にするなど恐れ多くて……」

「そうか」

「花嫁候補は過去に何人かいたことはあったが」

「私もここで共に晩飯をするのは初めてだ」

(ご主人さまも、初めて、だなんて)

「朝も美味かったが、この晩飯は特別に美味いな」

(あ、ご主人さま、初めて、微笑んでくれた…………)

自分も微笑み返したかったけれど、

笑い方を忘れてしまっていた自分には出来ず、

エルバートの、その、優しい微笑みが、心の中で特別なものになっていくのをただただ、感じることしか出来なかった。

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    フェリシアはアマリリスを見つめる。「はい、わたしもエルバート様が好きです」そう、告白すると、アマリリスは優しく微笑む。「ならば、お互い負けられませんわね」「フェリシア様、お料理にそれぞれ全力を尽くしましょう」「はい」その後、しばらくして、フェリシアとアマリリスのビーフシチューが出来上がると、皿にそれぞれ少し盛り、お互いにスプーンで味見をし、台所まで来たディアムとエルバートの父の側近にはきちんと盛り付けをして、フェリシア達のビーフシチューをスプーンで食べて完食してもらい、エルバート達が食べる6皿の毒味もしてもらう。すると全皿問題ないと判断され、広間までディアムがフェリシアのビーフシチュー、エルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを責任を持ってお盆で運び、エルバート、エルバートの母、エルバートの父のテーブル席にエルバートの父の側近がアマリリスのビーフシチューを一皿ずつお出ししていき、その後に続いてディアムがフェリシアのビーフシチューを同じようにお出しして、エルバート達のテーブルにそれぞれ2皿ずつ並ぶ形となった。「では私から」エルバートはそう言い、スプーンを持つ。そんなエルバートの姿を心臓をドキドキさせながら、アマリリスと一緒に見守る。エルバートはアマリリスのビーフシチューからスプーンで食べ、完食するとスプーンを自身に対し平行にして置き、普段と変わらない冷酷な表情で頷いた。隣のアマリリスをふと見ると、両目に涙を薄らと浮かべている。エルバートに初めて自分の料理を食べて貰え、更に完食して貰えたことが余程嬉しかったのだろう。アマリリスのビーフシューを先程味見したけれど、とても高貴な味で美味しかった。だからエルバートも頷くくらい美味しかったに違いない。そう思っていると、エルバートと一瞬目が合った。それを合図にエルバートはフェリシアのビーフシチューを新たなスプ

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    フェリシアは左側から席に着き、ナプキンは2つに折り、輪を手前にして膝にかけて待つ。するとやがてエルバートの母の執事による豪華な肉料理のフルコースが始まり、白ワイン入りグラスは親指から中指の3本で持ち、薬指で固定して飲み、バラの花びらのような生ハムトマトの前菜はナイフとフォークを外側から使い、美しさを楽しむよう、いっぺんに崩さないように左側から少しずつ食べ、クリームスープはスプーンを手前から奥へ動かしてすくい、パンは手で一口大にちぎり、そのパンに少しずつバターをのせて食べ、肉料理である牛フィレのパイ包み焼きは左側の端から食べやすい大きさに切りながら頂き、デザートの華やかなケーキは固かった為、ナイフで切り、食事が終わると、ナイフとフォークを揃え、皿の右下へ置き、ナプキンはテーブルの右側へ無造作に置いて、左側から退席した。こうして、食事マナーも無事に終え、最後の料理作りとなり、フェリシアはアマリリス嬢と共に広間から台所へとエルバートの母の執事に案内され、それぞれビーフシチューを作り始める。ブラン伯爵邸の台所もまた厨房のように広かった。食事マナーを終えた時、エルバートとディアムは見守ってくれていたけれど、エルバートの両親、アマリリス嬢はまたどこか驚いた様子だった。きっと上手く出来ておらず、呆れていたのだろう。そして最後の料理作りは毒や不正が働くのを考慮し、先にディアムとエルバートの父の側近、続いてエルバートとエルバートの母が順に食べ、最後にエルバートの父が食べることになった。だから、(料理を教えてくれたリリーシャさん、そして何よりこのビーフシチューの料理を認めてくれたご主人さまに決して恥をかかせる訳にはいかないわ)そう思っていると、アマリリス嬢が話しかけてきた。「フェリシア様はやはりお料理手慣れていらっしゃるわね」「え?」話しかけられると思っていなかった為、フェリシアは驚く。

  • 一通の手紙から始まる花嫁物語。   11話-1 初めての感情。

    ――そして、まずはエルバートとアマリリス嬢が踊ることとなり、不安げなフェリシアの袖を掴む手に触れ、見えないように優しく下ろすと、エルバートはアマリリス嬢の元に向かう。すると、エルバートの父が広間に軍楽隊を呼び、その弦楽器の美しく優雅な演奏と共にふたりは踊り始める。エルバートの踊る姿を初めて見たけれど、惚けてしまうくらい美しく、かっこいい。それにアマリリス嬢も引けを取らず、エルバートと息がぴったりと合っている。(雲の上のようなおふたり。ほんとうに絵になるわ…………)やがて、アマリリス嬢とエルバートが踊り終え、フェリシアはエルバートの元まで歩いていき、向き合った状態で足を止める。けれど、緊張で足がすくんでしまう。(せっかくクォーツさんにダンスの特訓をしてもらったのに。こんな足でちゃんと踊れるかしら…………)そう、足に目線を向けながら不安に陥った時だった。「……フェリシア、こちらを見ろ」エルバートに小声で話しかけられ、顔を見る。それだけで不安が一瞬にして消えた。「……私がリードする。だから安心して身を任せろ」「……はい」同じように小声で返すと、エルバートが手を差し出す。フェリシアはその手に自分の手を添えた。それを合図にアマリリス嬢の時と同じ軍楽隊による弦楽器の優雅な演奏が始まり、共に踊り始める。そうして少し慣れた頃、エルバートの手が腰に触れ、顔がぐっと近づく。お互いに見つめ合うと、離れ、踊り続ける。ほんの一瞬顔が近づいただけなのに、顔が熱い。(リードするってご主人さまおっしゃっていたけれど、こんなの身が持ちません)そう思いながらも、不思議と嬉しさの方が勝る。

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